まず「ヨガ尻」は、医学用語ではありませんが、ヨガをすることで受傷する可能性のある怪我を指す言葉です。
ヨガ尻を一言で説明すると、ヨガのポーズをとるときに身体を酷使してしまうことによる筋肉の損傷です。
ヨガは、肉体的にも精神的にも健康を保てる運動。
ですが、やり方を間違えると最悪のケース、ヨガ尻によってヨガを長期間休まなければならなるなるかも・・・!
この記事では、ヨガ尻の正体やヨガ尻かどうかを確認する方法、そしてヨガ尻を引き起こす原因と対策をヨガ講師であり理学療法士でもある編集長が解説していきます。
「ヨガ尻」とは?
ヨガ尻は、解剖学的にはハムストリングという筋肉の障害です。
ハムストリングスとは、太ももの裏にある筋肉で、特に坐骨結節(座骨)の付着部位にあるハムストリングの炎症をヨガ尻と言います。
突然の捻挫や筋肉の伸ばし過ぎによる損傷など、明確なきっかけのある場合(急性疼痛)もありますが、ときに、時間の経過とともに自然発生する場合(慢性疼痛)もあります。
ヨガ尻になる原因
ヨガ尻の主な要因に考えられるものとして、ヨガの練習のなかで股関節を曲げる動きを強要されるケースがあります。
股関節を曲げる動き、股関節の屈曲が必要とされるポーズを繰り返し行った場合のケースです。
たとえば、以下のようなヨガポーズ(アーサナ)が挙げられます。
- ウッターナーサナ
- スーリヤヤントラーサナ(コンパスのポーズ)
- ハヌマーンアーサナ(前後開脚)
- エーカパーダシルシャーサナ
いくら柔らかい身体であっても、腱の弾力性は限られているので、このようなポーズをとると、腱が伸びすぎて炎症を起こす可能性があるんです。
股関節の回旋が伴う場合は要注意
ヨガ尻で怪我をする場面で多いのは、特定の片足立ちや股関節の回旋要素が強いられるようなヨガポーズ。
股関節の回旋とは、脚を内側に捻ったり(内旋)、外側に捻ったり(外旋)する動き。
特に股関節の回旋要素が入ることで、ハムストリングスや股関節の回旋筋である、梨状筋に大きな負荷がかかります。
なぜなら股関節と膝を安定させようとすると、梨状筋やハムストリングスが連携して機能する必要があるからです。
ですが、梨状筋もしくはハムストリングスのどちらか1つでも痛みなどでうまく機能していないと、機能していない筋肉を補うように周りの筋肉がオーバーワークになるのです。
結果、ヨガ尻としてさまざまな症状を引き起こしてしまいます。
そしてヨガ尻の多くはハムストリングスの損傷ですが、そんなハムストリングスの強化ができるようなヨガポーズはほとんどないのも症状の改善を難しくしている理由です。
ヨガ尻になってしまったときの大切な考え方
ヨガ尻になってしまった人の多くは、「硬いから痛くなったんだ。だったら柔らかくすればいいのではないか?」と、ハムストリングスの極端なストレッチと組み合わせてしまいます。
しかし、極端なストレッチは症状を悪化させ、さらなる機能不全につながる可能性があるんです・・・!
ヨガ尻、つまりハムストリングスの損傷は、酷使による損傷だけでなく、受傷後のストレッチ等による過負荷の問題も潜んでいます。
とはいえ、まずは自分自身でヨガ尻になっているかどうかがわからないと、対処ができないですよね。
ということで、次にヨガ尻かどうかを知るための方法をお伝えしていきます。
ヨガ尻かどうかの確認方法
経験豊富なヨガインストラクターの場合、ヨガ尻に関連する痛みや不快感を間違えないことを教えてくれます。
一般的な症状として現れるのは、以下の2つです。
- 座骨結節部の痛み
- 梨状筋部の痛み
なんだか専門用語が出てきてわかりにくくなってきましたね。
図解もいれながら、解説していきます。
座骨結節部の痛み
殿筋(お尻の筋肉)のすぐ下、またはハムストリングスが付着している坐骨結節(座骨)の鋭い痛みです。
強い痛みの場合もあれば、筋肉の張りを感じるような程度の軽度な症状もあります。
梨状筋部の痛み
梨状筋とは、お尻にある細い筋肉です。
股関節を保護するインナーマッスルでもあります。
梨状筋も股関節を深く曲げると伸ばされる筋肉です。
ヨガで傷ついてしまった梨状筋は防衛反応として、グッと硬くなります。
すると、近くを通っている坐骨神経を圧迫してしまい、坐骨神経痛のような症状が出るのです。
座骨神経痛の主な症状は、太もも後面やふくらはぎ部のしびれや痛みです。
痛みの出現するヨガポーズ
股関節を屈曲する次のようなヨガポーズでは、痛みを感じやすいです。
- ウッターナーサナ(フォワードフォールド)
- スーリヤヤントラーサナ(コンパスのポーズ)
- ハヌマーンアーサナ(前後開脚)
- エーカパーダシルシャーサナ
- ヴィーラバドラーサナ(戦士のポーズ)Ⅰ~Ⅲ
- パーダアングシュターサナ(足の親指をつかむのポーズ)
- アーナンダバラーサナ(ハッピーベイビー)
上記のヨガポーズをとったときに痛みが増強するようでしたら、「ヨガ尻かもしれない」と疑った方がいいです。
ヨガ尻になってしまったときの対処法
ヨガ尻は少し治ったと思って無理をしてしまうと、再び症状が悪化してしまうケースも多いため、一旦は十分に休むのが推奨されます。
「一度休んでしまうと、ヨガを楽しめる身体ではなくなってしまう・・・」と感じる人もいるかもしれませんね。
ですが、痛みに耐えながらヨガをしてしまうと、かえって変な癖がついてしまいます。
そうならないためにも、勇気を出してヨガを休むということが大切です。
ヨガを練習することには多くの心身面へのメリットがあります。
国際ヨガ協会によると、ヨガで期待できる効果は以下の通りです。
(1961年の発会された国際ヨガ協会は、ヨガ講師兼理学療法士の私も参考にさせていただいており、有益で信頼できる情報を発信されています。)
- リラックス
- ストレス解消
- 柔軟性の向上
- 疲れがとれる
- 楽しい
- 姿勢の改善
引用元:国際ヨガ協会
だからこそ、ヨガ尻を早く治すことができれば、それだけ良いのです。
できれば、整形外科の診察を受け、医師に適切な運動量を指導してもらいながら、徐々にヨガへ復帰していくのがおすすめ。
ヨガ尻を長い目で改善していくのが安全ですが、その場合、炎症が治まり始めたら、傷ついた組織の周辺に軽い負荷をかけ始めたいです。
なぜなら、筋肉は適度に刺激を与えられると、より強くなるからです。
より強くなれば、当然組織は再発しにくい状態になります。
では、どうやって徐々に軽い負荷をかけていけばいいのでしょうか?
次はヨガ尻に対して適度な負荷をかけていく方法の紹介です。
痛みを引き起こすヨガポーズや動きを避け、ヨガレッスンの強度を下げるなども当然重要です。
無理のない範囲でヨガを楽しむとともに、次のような対策をしつつ、適度な負荷をかけていきましょう!
テーピング
テーピングは、患部へのストレスを軽減して症状の悪化を予防してくれます。
具体的なテーピング方法は以下を参考にしてみてください。
- 1本目:痛みのある部分の下に「内側→外側」へ巻く
- 2本目:1本目と同じ高さから巻き初めて「外側→内側」へ徐々に上に向かって巻く
- 上記2つを徐々に上へ移動するように巻いていく(4回程度行う)
テーピングはハムストリングスの過度な緊張を取り除き、最適な筋収縮を促してくれるツールのひとつです。
運動強度の調整方法
筋肉の収縮様式によって、運動の強度が異なります。
筋肉の収縮様式を知って、運動強度の調整をしていきましょう。
筋肉の長さが変わらずに力を発揮する収縮方法。静止してヨガのポーズをとるときなどがこれにあたります。多くの人がやりやすく、痛みを和らげる鎮痛効果が期待できます。求心性収縮
筋肉を縮めながら力を発揮する収縮方法。うつ伏せになって膝を曲げるときがこれにあたります。等尺性収縮よりかは強度が増すので、注意しながら行いましょう。
遠心性収縮
筋肉がゆっくり伸びながら力を発揮する収縮方法。スクワットやデッドリフトがこれにあたります。最も強度の強い収縮様式なので、ある程度の動きでは痛みが出現しなくなったら行うようにしましょう。
3種類の収縮様式をお伝えしましたが、オススメは等尺性収縮。
痛み再燃のリスクも少なく、ヨガでよく使う収縮様式なので、基本的には等尺性収縮の練習を強度のコントロールをしながら行っていきましょう。
簡単なワークでも痛みが生じないのであれば、ヨガのポーズにも少しずつ挑戦していきます。
具体的には以下のヨガポーズがおすすめです。
- ローカストポーズ
- バランシングスティック
- サイドプランク
無理をしすぎると、ヨガ尻の改善には時間がかかる場合もあるため、治癒するための対策を行いつつ、辛抱強く待つことも大切にしてくださいね。
代わりとなるポーズを行う
特定のポーズで痛みや違和感がでる場合は、そのポーズを避けて別のシークエンスを試しましょう。
怪我が治るまでの間、いくつか代わりとなるポーズを試してみてください。
ブリッジポーズ
ブリッジポーズは、ハムストリングを伸び縮させる必要がないため、殿筋を左右対称に活性化させられるポーズです。
ブリッジポーズは、ヨガ尻によって炎症を起こした部位を悪化させることなく筋肉を活性化することができます。
ツリーポーズ(改変版)
ふくらはぎに足を置いたツリーポーズもおすすめです。足を高い位置に置くよりもバランスをとるのが簡単だからです。
バランスが求められないポーズになるため、ハムストリングスや梨状筋の過剰な収縮が起こりにくくなります。
しかも、股関節を安定させる殿筋を効果的に使いやすくなるんです。
椅子のポーズと片足の椅子のポーズ
椅子のポーズに取り組むことができたら、効率的に行うために多くの体幹筋や股関節周囲筋、膝の周りの筋肉の活動が求められるポーズにもトライ。
具体的には、片足の椅子のポーズです。
痛みの様子をみながらチャレンジしてみてください。
ヨガ尻の予防策
ヨガ尻になる前の予防策・対策もあります。
いまはまだ痛みがなかったとしても、予防策を知っておいて、健康的で楽しいヨガが続けられるようにしましょう。
それでは以下にヨガ尻の予防策を2つ紹介していきます。
ヨガポーズ中に膝を少し曲げる
膝を少し曲げることをおススメします。
ヨガ尻の痛みを避けるためには、前屈などのハムストリングスが伸ばされるポーズで、膝を少し曲げておきましょう。
ヨガ尻が改善した早い段階で、痛みを超えるほどポーズを深めてしまわないようにするためです。
膝を曲げておけば、ヨガ尻の症状を確認しながらヨガポーズを行いやすくなります。
休憩も大切
ヨガ尻の痛みがある場合、ハムストリングスを過度に伸ばしたり、可動域全体に向かって移動したりするポーズは控えた方がいいです。
ヨガ尻になってしまった人の中には、こうおっしゃる人もいます。
「私はヨガお尻でしたが、早期に対処しなかったので、ウッターナーサナのときに膝を大きく曲げないとポーズが取れませんでした。そんな状況が約6か月続きました」と。
ときには休憩も大切です。
下手に無理をすると、変なヨガポーズの癖もついてしまいますので、注意してください。
まとめ
ヨガ尻の原因や対処法について、解説をしていきました。
ヨガ尻の原因となっている股関節過度な屈曲を求められるヨガポーズは基本ポーズのなかにもわりと多いです。
ヨガは、心と身体をつなぎ、健康な心身状態を保ってくれるのに有用なツール。
目の前に素敵なヨガポーズを繰り出すヨガインストラクターさんがいると、「わたしもあんな素敵なヨガポーズをとりたい」と思い、無理をしてしまう場合もあるかもしれません。
ですが、ヨガは誰のためでもない、自分のための時間。
楽しくいつまでもヨガが続けられるように、ご自身のお身体に耳を傾けてあげてくださいね。
そしてヨガ尻に対して疑問がある場合は、お近くの医師や理学療法士、知識のあるヨガインストラクターにも相談してみてくださいね。
PS.
もちろん、問い合わせをしてくだされば、編集長がわかる範囲でお答えします!
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